21世紀の大学像と今後の改革方策について(答申)−競争的環境の中で個性が輝く大学−
      II 21世紀の社会状況の展望と高等教育
      3 高等教育の規模


      (2) 大学院の拡充

       平成22年(西暦2010年)における大学院の在学者数は25万人程度になると推
      計されるが,今後の制度改正や産業構造の変化などを考慮すると,全体としてはそ
      れ以上の規模に拡大していくと見込まれる。国は,この規模を念頭に置きつつ,特
      に大学院修士課程における高度専門職業人の養成を中心に量的な拡大を図り,大学
      院の質の維持向上と教育研究条件の充実のための措置を講じる必要がある。
       なお,国立大学については,今後大学院の規模の拡大に重点を置く必要がある
      が,関連して状況に応じ学部段階の規模の縮小も検討していくことが必要である。


      (在学者数の現状)
      ア.大学院の在学者数の規模について本審議会は,平成3年11月に「大学院の量的整備について」答申し,平成12年の大学院の規模について「全体としては,少なくとも現在(平成3年)の規模の2倍程度に拡大することが必要である」と提言した。この答申を受けて,新たな大学院(研究科・専攻)の設置や大学院の入学定員増など各般の施策が講じられ,大学院の規模の拡大が図られてきた。
       大学院の在学者は,平成9年5月現在で 171,547人(修士課程119,406人,博士課程52,141人)であり,平成3年の98,650人(修士課程68,739人,博士課程29,911人)に比べ 1.7倍の規模となっており,平成12年には大学審議会の提言は達成される見込みである。

      イ.このように我が国の大学院は近年著しく規模を拡大しつつあるが,人口千人当たりの大学院学生数で1.3人,学部学生に対する大学院学生の比率は6.9%(1996年)であり,アメリカの7.7人,16.4%(1994年),イギリスの4.9人,21.3%(1994年),フランスの3.5人,17.7%(1995年)など,諸外国の状況と比較すると,なお大きな隔たりがある。
       
      ウ.大学院は基礎研究を中心として学術研究を推進するとともに,研究者の養成及び高度の専門的能力を有する人材の養成という役割を担うものである。一層変化が激しく複雑化していく21世紀の社会を迎えるにあたり,これからの大学院に特に求められることは,i)学術研究の高度化と優れた研究者の養成機能の強化,ii)高度専門職業人の養成機能・社会人の再学習機能の強化,iii)教育研究を通じた国際貢献の3点であり,そのいずれの面からも大学院のさらなる整備充実が必要である。

      (将来推計)
      エ.大学院への進学動向及び修了者の雇用機会についての近年の傾向の分析に基づく将来推計によれば,西暦2010年における大学院の在学者数は,これまでの進学動向に基づく試算では約25万人,雇用機会に基づく試算では約22万人から24万人との結果が得られた。なお,この推計はあくまでも現行の制度をそのまま維持し延長したものであり,本年3月に制度化された通信制大学院や今回別に提言をしている修士課程の1年制コースや長期在学コースなどの制度改正が行われた場合の影響は加味されていない。

      オ.今後の社会経済の発展の中で,伝統的に意識されてきた大学院修了者の進路の在り方についてはこれまでとは異なる変化が生じざるを得ず,学生側,雇用者側,双方の考え方を変えていくことが必要である。

      (今後の規模の在り方)
      カ.今後の大学院の規模の在り方については,以上の推計のほか,国際社会で活躍するための基本的な要件として大学院レベルの修了が求められている状況や,21世紀に向けて科学技術創造立国を実現していく必要,また,急速な技術革新や知識の陳腐化に対応しリフレッシュ教育の機会を求める社会人等が増えると考えられること等を踏まえるとともに,今後の産業構造の変化等を勘案する必要があり,新しい産業分野が創出され成長するにつれ,高度な知識・能力を備えた人材への新たな需要が生まれてくることを想定すると,全体としては,25万人以上の規模に拡大していくことが見込まれる。

      キ.国は,この規模を念頭に置きつつ,特に大学院修士課程における高度専門職業人の養成を中心に量的な拡大を図り,大学院の質の維持向上と優れた教育研究実績をあげることが期待される大学院や教育研究上の新しい試みに意欲的に取り組もうとしている大学院が,より一層その特長を発揮できるよう,教育研究条件の充実のための措置を講じる必要がある。

      ク.また,諸外国の状況や今後の社会変化等を踏まえると,将来的には,諮問において例示されたように,大学院の在学者数が30万人規模となることも予想されるところであり,この面からも質の維持向上方策の一層の充実が望まれる。

      ケ.なお,国立大学については,今後大学院の規模の拡大に重点を置く必要があるが,関連して状況に応じ学部段階の規模の縮小も検討していくことが必要である。

      (強調 : by m)